月探査懇談会の報告書(案)が提示され、パブリックコメントの募集が6/17〆切で行われた。
何度も書いているが、『月探査』をやるべきかやらざるべきかと言われたらやるべきである。しかし限られた予算の中で、今、月を最優先でやるべきか?といわれたら、やるべきでない、と私は思う。

おそらく、『月』を最優先でやるべきと主張する側のロジックは以下の通りだ。

  • 世界各国の手により太陽系の探査が進む中で、重力天体への着陸・重力天体からの打上技術を我が国も独自で確立する必要がある。
  • そのためにはまず、地球に最も近い重力天体の月で技術確立を目指すべきだ。
  • 月に無人基地を設置するなど夢のある計画を提案することは、国民に希望を与えて科学技術に関する興味を喚起する。
  • しかしこれらは本当だろうか?
    まず、NASAは確かに太陽系大航海時代を宣言して、探査の網を広げようとしているように思う。また中国もインドも月を目指しており、両国は将来に月面『有人』基地を建築することを想定した計画を進めている。
    このような状況の中、我が国が重力天体への着陸・重力天体からの打上技術を磨くべきであろうか?
    ここに一つミスリードがある。月でそれらの技術を磨いたところで、当面使えるのは月しかないのだ。火星や金星などパラシュート等の大気による減速効果が利用できる有大気の天体への着陸・離陸は、大気のない月とは全くちがった状況になる。あり得る適用先はガリレオ衛星とかEKBO天体ぐらいの物だ。しかしこれらに対して日本が着陸機を打ち上げられるかと言えば、不可能である。それだけの打上重量を支えられる輸送系が存在しないからだ。H2A fullで打ち上げても、せいぜい缶サットぐらいの重量しかこれらに対して送り込むことが出来ない。すなわち、ここで磨いた技術は当面、月にしか行けない技術なのである。
    でも「月に行けたら良いではないか」という議論もおこるかもしれない。しかし考えてみて欲しい。月はそもそも40年も前にアメリカが人を送り込んだ天体であり、そして今、まさに中国・インドは人を送り込もうとしている天体である。そこで日本が中途半端に「無人月面基地」をつくって無邪気に喜んで何か意味があるのか?そこを吟味すべきである。
    またこの検討には「月」と「それ以外」の比較が全く乗ってきていない。昨今、日本中が喚起した小天体探査機「はやぶさ」は、「他国の追随を許さない日本だけが保有している」技術であり、またその技術は次のミッションが決まらないとどんどんと四散していき、優位性が保てなくなる状況にある。
    月も小天体探査もどちらもが出来る経済状況にないことは、いつも書いているとおりだ。その中で「とりあえず月に関する検討をしました。月に行く価値があることがわかりました。だから月計画を立てます」というのは、大いなる『片手落ち』だろう。やるなら「月を含めて他との比較検討も行い、選択と集中を考慮して決めました」と言えないで、何の検討か?と私は聞きたい。

    パブコメの結果を受けて、宇宙開発戦略本部・文科省も巻き込み、その結果が近日中にも出てくるであろう。しかしそれが本当に、日本の国益・国家戦略を考えた計画なのか?其所を今一度、考えて欲しいと思う。

    私は我が国にとって、月探査は最優先事項ではないと思う。今やるべきは小天体探査機の後継機をさっさと決めて来年度予算化することだ。そのために必要な「比較検討」の議論が行われ、その過程が広く公開されることを、心から願う。

    我が国にとって月探査は最優先事項か?

    投稿ナビゲーション


    我が国にとって月探査は最優先事項か?” への3件のフィードバック

    1. はやぶさプロジェクトは、困難を乗り越えて、惑星のサンプルリターンが可能であることを、世界に先駆けて実証しました。次は、確実に惑星のサンプルリターンが出来る技術を早急に確立し、日本の技術として次の世代に引き継ぐことがなにより重要と思います。他の国にはない技術があってこそ、対等の関係で宇宙開発が進められると思います。

    2. マイケルポーターの言っている「戦略とはポジショニング」と云う事が当てはまっていると思います。
      日本にとって有利な展開をする為のポジショニングが、太陽系探索と云う事でしょう。
      まあ、日本の場合は決して財政破綻にはならないでしょう。
      研究開発者と云う人的資源があれば、大胆に財政出動して事を行うべきでしょう。
      もし、月に情熱を持つ本物のチャレンジャーがいれば、国はそちらにも金を出すべきです。
      良いチャレンジャーが存在する場合であれば、技術に投資する分には、金に糸目をつける必要は全くありません。
      但し、良い人的資源が存在しない時は見送るべきです。
      最も大切な事は、人的資源の存在です。予算は、潤沢に国が出すべき事です。レンホをクビにしてでも。

    3. >山口さん
      日本が財政破綻にならないかもしれませんが、結局方針も打ち立てられずにずるずると「とりあえず金無いから」とすべてが矮小化していく未来じゃないかと私は思います。
      蓮舫さんは個人的にも知らないので良くわからないですが、でも、あれですよ。宇宙関連で我々が「そんな一言だけ取り上げられても真意が伝わらないよー」と思うのと同じもどかしさも、彼女も感じてるんじゃないかとも思いますが、はい。
      ”最も大切な事は、人的資源の存在”
      →私もそう思います。今回の月計画の問題は、着陸探査・サンプルリターンまではokなのです。その後の無人月基地あたりから怪しくなる。それをやるための科学的な意義・外交的な意義まで考えている現場レベルの人が居ません。まさに絵に描いた餅、です。このけんはまた書きたいと思います。
      >H-Unoさん
      はい。そうなんですが、必要なのは「いろんな物との比較」なんでしょうね。月も何処までをいつまでにやるべきなのか、火星も何処までをいつまでにやるべきなのか等、その辺のビジョンが必要ですね。議論でクリアーになってくると良いのですが、そういう議論の場ってなかなか無いんですよね。 こまった。

    コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です