その昔、中学生の君へという文章を書いたことがあるけれども、今回は大学生の君へ宛てた文章だ。最初に断っておくけど、これは特定個人に宛てた物じゃない。僕が、今大学生の君達に、是非伝えておきたいこと、是非言っておきたいことを書いているだけだ。もし君がこの文章を読んで思い当たることがあったとしたら、、、うん。そのときこそ、参考にしてくれればいい。読んでも全然意味がちんぷんかんぷんだったとしたら、、、それはそれで少し悲しいね。出来れば、理解できるように努力して貰いたいと思う。
僕は今、大学の教員をしているけれども、僕の居るポジションは基本的に君達に何か具体的な事柄を”教える”仕事ではないと思っている。そうではなくて、物事の考え方やとらえ方、理解の仕方に関して、気づかせるのが仕事だと思っている。君達は中学生じゃない。高校生でもない。大学生だ。民主主義国家に於ける、自由な社会における、大学生だ。このことを意味を良くわかって欲しいといつも思っている。いや、そのことを理解して行動して欲しいと思っている。もっというと、それに付随する義務、んー、義務と言うよりは、『社会より信託された』責任を感じて欲しい、と思っている。このことを理解した卒業生を一人でも多く世に送り出すこと。これが僕に与えられた仕事だと思っている。
こんな風に書くと”んじゃ学生宇宙プロジェクトでやっている衛星製作やロケットはなんなの?”と思うかも知れない。意外におもうかもしれないけれども、それは僕にとってはツールでしか無い。いや、もちろん僕は個人的に宇宙に到達するための道筋を作り上げたいと思ってるよ。でもね、もしそう思っているのであれば、そして自分がその作業に「工学的に」参加するんだったら、こんなところで旗振ってないで、はんだごて握って、旋盤回して、自分で作ってるってば。衛星とか、ロケットとかね。でも僕はそんなことやってないよね?学生である君達にこういう組織を作ろうとか、こういう目標を立ててみようとか、ものすごくまどろっこしいことをしている。なぜなら、「君達が成し遂げる成果物」が欲しい訳じゃなく、「成し遂げるために君達が経験する学生の自主的な活動」こそが目的だからだ。問題は「自主的な活動」ってやつで、これがどーにもうまくつたわらない、と常々思い悩んでいたりする。どーやったらこれを君達に伝えられるんだろう?と。もっというと、「自主的である必要があるのか?」等という意見まで出てきそうな雰囲気すら感じ取ったりする。うーむ、実に困っているのだ。
『社会より信託された』責務を理解し、実行するためには、自由であること、自主的であることが必要不可欠だと僕は固く信じている。我々は国王陛下の臣民ではないのだ。いや、奴隷と言うべきか。真の臣民は、ある意味自主的に自分の任務を考えて実行してるみたいだしね。<少なくともジェームスボンド君はそうだよね。我々は民主主義国家における大学生として、自由の価値と責任を理解すべきだと思うのだ。んじゃ何故それが必要不可欠だと信じているのか??
数年前、東海村で臨界事故があった。事故そのものは覚えているかも知れない。バケツで硝酸ウラニルを補充していたなど、ずさんな管理方法が問題になったけれども、僕がこの事件で一番衝撃を受けたのはもっと別なことだ。この事件、発生当初は「臨界事故」としての認識が現場には無かった。その結果、事故現場に駆けつけた消防員や救出にあたった人達もまた、被爆してしまった。「臨界事故である」という認識を、一体誰が伝えるべきだったのだろうか?
事件の詳細をみると、現場では臨界事故が起こりうるとは思っておらず、その為の対策を練っていなかったことがわかる。その結果周囲も臨界事故を想定せず、このような事故が発生した。すなわち、事故は”想定外”の出来事だったのである。アポロ1号の火災原因が何か?と聞かれたときに、宇宙飛行士の一人が”我々みんなの想像力の欠如が原因だ”と答えたのは有名な話しだけれども、まぁこの事件は十分に想像すべき事柄だったのに想像されていなかったという事件で、こんな言い訳が通用する事件じゃない。しかし、である。事故を起こした企業には、それこそ中性子カウンターが備えられていなかったけれども、この事故を起こした場所は東海村だというのが重要なポイントだ。東海村は僕も大学院の時代に時折行っていた場所であるが、東海村はある意味日本の原子力のメッカとも言える場所なのだ。原研の研究施設だってあるし、企業の原子力関係の研究機関も多く存在する場所なのだ。中性子カウンターを持っているところだって多い。これがどういうことかというと、「周りにいた原子力の専門家である科学者・研究者は、何が起こっているのか知っていた」ということだ。実際、早くにこれが臨界事故であることに気がつき、遮蔽物の多いコンクリートに覆われた屋内に居るようにと家族に電話した人も居ると聞く。しかしその情報は現場には伝わらなかった。伝えようとした人もいるのかもしれない。しかし当時、僕がこの事件を知ったときの彼等のコメントは、、、「当然現場では臨界事故だと知ってると思った」「自分の仕事じゃないと思った」といったものだった。
確かに、確かに、こういった事故が起こったときに、外野が不必要な発言をするのは良くない。実際にこの事件の時にも、ネット上で自称 「原子力研究者」 が何人も登場し、勝手な推測をまくし立て過剰な不安を煽っていたと言われている。そう考えたとき、”不用意な発言をしない”というのは大人の取るべき行動だと思うかも知れない。しかし、である。現場では臨界事故であることを知らず、多くの人が被爆した。この事をどう考えると良いのだろう?
こう考えてみてはどうだろうか?もしその現場に自分の親族が居たとしたら?親・兄弟・子供、彼氏・彼女がいたとしたら?自分は原子力の専門家であり、手元の中性子カウンターは明かに異常な数値を示している。継続的にこんな中性子の発生が起こるとすれば、それは臨界が継続しているからに他ならぬ事を、自分は専門家として知っているとしたら?何かすべきだと思わなかっただろうか?
この事件は実際にあった事件であり、またその影響の大きさを考えたとき、専門家だからこそ慎重に行動すべきであったという意見も十分に理解できる。だから、その時、その場に居合わせた人達に対して、僕は別に非難しようと思っている訳じゃない。僕が言いたいのは、そこにもし自分が居たとしたとき、自分がどう考えるか、それを考えて欲しいってことだ。その問題を、社会の中に生きる一人の人間として、自分が社会から与えられた知識・立場・力によって、何か変えうることが出来るかもしれないと思ったときに、自分自身は何をすべきなのか、ということを考える例として、この問題を学んで欲しい、と思うから今回取り上げた。
社会の一員として生きる時、実はこんなことはいっぱいある。何かトラブルが起こるのを自分はわかっていながら、自分の仕事じゃないと思って見過ごすならまだともかく、当然気がつくべきトラブルの種に気がつくための訓練すら受けていない、そういった訓練をすべきだとも思っていない、そんな事態に陥っていないですか?僕が問いたいのは、そういうことだ。こういう事を理解するには、自分達の、ホントの意味で自分達がやりたくて、自分達の手で成し遂げるプロジェクトを実施する過程において、学べると僕は思っている。
言われたことをやる。それはただのロボットだよ。言われたことを理解し、その遂行のためにあらゆる事を考える。出来るか出来ないかはともかくとして、自分の才能で限りなくパーフェクトに実現を図るための努力をする。それが『社会より信託された』、大学生の君の責務だと、僕は思う。
まぁこの話は、”でもこの社会は別に僕が守るべきものじゃないもん”とか言い出すと、終わりなんだけどね。これはこれで、また別の機会に書こう。

・大学生の君へ

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・大学生の君へ” への6件のフィードバック

  1.  お、いいこと書いてますね。本当にそうです。
     「自分のせいじゃない」というのは、バブル経済からこっちのぼくら日本人全員が陥った精神の退廃だったと思います。

  2. この文章だとタイトルと違って、技術者倫理や日本の現代人に対する訴えと捉えることもできるのでは?

  3. >松浦様
    いやはや、まったく。多分に自己反省が現在の動機なんですが。
    >通りすがりのTさん
    もちろん、もちろん、書いてることは技術者倫理と現代日本人に対する訴えなのですが、それはとりもなおさず、その卵である大学生が、この時期にこそしっかりと心に留めておいて欲しい内容だと思うのですよ。だから大学教員として、タイトルはこの”大学生の君へ”となりました

  4. お久しぶりです。ほんと、いいお話で、プロとして仕事をするって言うことについて、考えさせられました。実は先日、地元の新聞の「今日の言葉」という囲みに以下の言葉が載り、最近それを繰り返し思い出していたのです。
    「主体的に行動するとは、ある現象を見たときに自然に行動のスイッチが入ることです」 『ゴールデンエイジ』幸島祥夫
    かくありたい、と思って暮らしていますが、なかなか。

  5. おー、神谷さん、お久しぶり。なんだか秋田もすっかり秋が深まってきましたねぇ。前に求人を出しましたが、実はちーとばかし良いことがありそうです。また悪巧み、じゃなかった、飲み会を企画しましょう!

  6. 原子力関係者がものを知らない事はチェルノブイリ事故のときから知ってました。
    あの時、日本の黒鉛原子炉はソ連のと違って炭酸ガスだから安全とか言ってましたが、それを聞いて「こいつ、カルボニル反応のことを知らないな」と思いました。
    ようするに高温高圧でCOと鉄が反応して昇華性の鉄カルボニルができて融けるんですが、加熱された黒鉛と炭酸ガスでCOが発生し、圧力容器の鉄と反応すれば融けちゃうわけです。

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