今日からしばらく日本にいません。まずベルリンからグラーツに行き、そこからサンパウロに飛んでサンノゼ・ブラジリアと廻って9/24の朝に一旦日本に帰ります。その後、9/25の朝からまた今度はポーランド・チェコ・リトアニア・エストニアと巡ってきます。
UNIFORM計画への参加国を募るのと、外務省の研究員交換や講演が主な目的ですが、広く世界を見て、何処にどんなプレーヤが居て、その国の人達が何を考えているのか、僕が日本の片隅でイメージしていたのとどのぐらい同じなのか、違っているのかを、しっかりと見て、聞いて、話してこようと思います。この時期、日本を離れるのは大変なんですが、でも必要な修行だと思っていってきます。

さて、日本を去り際に一つ、文章をアップしておきます。これはこの秋から冬にかけて、本来であれば宇宙庁の設立が決まってから議論を深めるために書き始めていた文章です。ビジョンと戦略・戦術の線引きが甘いのでこのあたりはまだ変更する可能性はありますが、とりあえず現状の考え方を記載します。御参考になれば幸いです。

僕は海外出張中で出れませんが、SDFのシンポジウムでも輸送系の議論が行われます。御時間があれば是非、御参加下さい。

平成23年8月27日(土)
宇宙開発の進め方に関する考察 (一部未稿)
和歌山大学 宇宙教育研究所
所長 / 特任教授 秋山 演亮

1.はじめに
本稿は今後の宇宙開発の進め方を議論する上で一つの出発点とすべく執筆した。本稿では国民が指向するであろう我が国の国家ビジョン、およびそれを実現するための戦略論的な選択肢、およびその選択肢をあげるために仮定した世界情勢など、多くは私の個人的な分析・判断に基づいている。今後、我々が宇宙開発の進め方に関するロジカルな考察を進めるために必要となる要素を上げ、より具体的に議論を進めるためにこのような分析・判断根拠を紹介することで、今後の議論の端緒となることを意図している。宇宙開発の実利用への転換点となる今こそ、広く深く議論が起こることを望みたい。

2.宇宙開発の進め方に関する議論のあるべき姿と我が国の将来ビジョン
我が国は敗戦国にもかかわらず独自の輸送系を開発し、世界で4番目の人工衛星打上を成し遂げた歴史を持つ。これは先行する3戦勝国がドイツで開発されたV2ロケットをベースに宇宙開発を進めアドバンテージを確立したことと比べると、我が国が誇るべき成果である。今なお我が国は射場を有する12カ国・地域の一角を占め、世界第三位の衛星打上実績を誇る(もっとも近日、中国に追い抜かれるのは必至である)。独自の射場と輸送系・衛星系・地上を開発・運用する能力を持つ「自在な宇宙利用能力」を保持していることを、外交的にも我が国に優位な点として利用すべきである。
古代においては鉄の製造が、大航海時代においては航海術や造船術・火薬技術が世界に覇を唱えるために重要な戦略技術であった。現代から近未来にかけては、グローバルな地球観測により広く情報を集め、測位情報によるローカルな分析手段を提供し、通信・放送ネットワークにより瞬時に情報を伝達できる宇宙開発技術こそが各国の命運を左右する可能性がある重要な戦略技術であると考えられる。このような「将来における戦略的意義」を持つ技術の「現存する優位性」を継続させる観点から、我が国政府は長年にわたり、宇宙開発の重要性を認識し、その継続的な発展を目指してきた。すなわち第一義的には「将来ビジョンに基づく国家戦略実現のためのツール」である点に、宇宙開発を『国家として』推進する意義がある。(もちろん科学技術や探査を進めることによる人類の智の蓄積・フロンティアの拡大に貢献するという意義もあるが、これらは国家戦略の一部としての国家ブランド / ソフトパワーの源泉であり、先の意義に内包される物と考える。)
一方で我が国においては、そもそもの「将来ビジョン」および「選択すべき国家戦略」に関して広く国民全体のコンセンサスが熟成されているとは言えない状況が長らく続いている。国土の復興を掲げた戦後、所得倍増による国民生活の豊かさを求めた高度経済成長期を終え、長期にわたる経済の停滞と熟成した社会構造の中で、我が国は将来ビジョンを画けず、同時に選択すべき国家戦略像に関しても決めることが出来ずにいる。。そのような状況の中でさらに具体的な実現手段としての戦術である宇宙開発の方向性が迷走するのは必然と言えるだろう。そして本来は国ただの戦術(手段)に過ぎなかったはずの「宇宙開発を継続的に発展させる事」が目的化してしまい、国家ビジョン・戦略論を置き去りにした個別の戦術論しか議論されなくなる状況が長らく続いている。
平成22年に開催された「今後の宇宙政策の在り方に関する有識者会議」ではこの点に留意し、宇宙開発の意義およびその意義を実現するために必要とされる能力(提言1)を明らかにし、その能力を維持・発展させるための現代的な方法論(提言2)の在り方の方向性を示し、それを政府として実施するために必要な体制(提言3)について提言を行った(添付資料1)。現在、この提言に基づいて様々な議論がされているが、しかし未だに根本となるべき国家ビジョン・戦略論に対する理解が欠如したまま語られることが多いため、その議論は個別の戦術論(手段)が目的にすり替わる矮小化した物になりがちである。宇宙開発の進め方を考えるに当たっては今一度、この基本的な部分に立ち返り、我が国の国家ビジョンが何かを考え、そこからブレークダウンして取り得る戦略論的な選択肢を提示し、個別の戦術論が語られなければならない。

我が国の国家ビジョンが誰によって作られるのかはあきらかではない。近代国家としての明治政府における国家ビジョンは、維新を成し遂げた薩長土肥を中心とする人材の総意として築き上げられたと考えるのが妥当であろう。征韓論等の意見衝突もあったが政府としての一体性は維持され、戦前には陸海軍を中心とした極めて覇権的な国家ビジョンが形成された。しかし完膚無きまでの敗戦によりこのビジョンは完全に瓦解した。現在も一部のコミュニティーにおいてはこのような国家ビジョンが唱えられているかも知れないが、しかし現在の日本政府および日本国民が全体のコンセンサスとしてこのような国家ビジョンを有しているとはとても思えない。戦後復興時の国家ビジョンは吉田首相及び官僚組織により形成され、その更なる具現化として、田中角栄を代表とするような自民党と官僚の蜜月関係の中から、高度成長を導く戦略が選択・実施された。冷戦期、強大な政治力・軍事力を有する米国の下で、名誉ある2番手として経済的繁栄を追い求めた我が国の在り方は、確かに明示的な議論等が行われたわけではないが、広く多くの国民全体がその選択肢を志向した結果だと考えても良いだろう。しかし冷戦が崩壊し世界が多極化を迎える中、同時に我が国の人口の構成は老成しその数はマイナスに転じる現象が起こった。新興国がどんどん発展する中、長期安定に入った我が国の経済力は相対的な地位低下を余儀なくされた。今後30~50年にわたりこの傾向はさらに加速されると考えられている(資料2)。そのような中で起こった政権交代は、戦後営々と築かれてきた政官産の人脈の瓦解を引き起こした。阿吽の呼吸により暗黙の了解が成立していた従来のやり方は崩壊し、新しい国家ビジョンを作るための明示的な議論が必要不可欠になった。しかし政治主導によって行われるべきこのようなオープンな議論は、不安定な政局の中で実現していない。そのため、早急に決められるべき国家ビジョン・戦略立案はますますその策定が困難となっている。加えて3/11に起こった大震災とその後の原子力発電所の危機が、状況を更なる悪化へと導こうとしている。
このような中、平成20年に制定された宇宙基本法の具体化を強く求められている我々宇宙開発関係者は、ベストな解ではないかも知らないがベターな解として、国民が求めているであろう国家ビジョンを推測し、そのビジョン実現のための戦略的選択肢を提示し、そのうえで個別の戦術論としての宇宙開発の進め方を論じることが求められている。

我が国は覇権国家を求めるのか?おそらく答えはNoである。それでは他の覇権国家に従属する道を選ぶのか?我が国文化の独自性および行動の自由・経済の自由がが保障される範囲において、おそらく答えは「許容できる」という意味でのYesであろう。しかし一番求めているのは、世界各国の独自の文化・行動の自由・経済の自由が保障された社会の一員として、尊敬される名誉ある地位にあることではなかろうか。このように考えるとき、永きにわたる議論の上で、国民の多くのコンセンサスとなっているであろう一つの文章が存在していることに気がつく。それは日本国憲法前文である。すなわち、『われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたって自由のもたらす恵沢を確保し』、『平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたい』との願望。これがおそらく、戦後60余年をかけて我が国が形作ってきた日本があるべき国家ビジョンであると私は考える。我々宇宙開発関係者は、この国家ビジョンを実現するための宇宙開発の進め方を考えるべきである。

3.国家ビジョン実現のための戦略的選択肢
国家ビジョンその実現のためには様々な戦略的選択肢が存在する。またその戦略的選択肢を考えるにあたり、世界情勢の分析が必要不可欠となる。そのため設立されるべき宇宙庁においては、国家戦略策定担当部署と強く連携し、国家戦略実現のための手段としての宇宙開発を追い求めるべきである。
我が国の国家ビジョンを先のように定めるとき、世界政府や国連による世界平和が実現していない現状においては、我が国が取り得る戦略的選択肢は以下の3つしかない。
1. アメリカ等の覇権国家を中心として結束された国家群の中で地位を築き、協力関係を模索する。(冷戦時の選択)
2. 覇権国家に対するアンチテーゼとしての第三国連合に参加・あるいは主導的な形成を図り、その中での地位向上と協力関係を模索する。
3. 国際社会の中での独自性・独立性を堅持し、多国間/他地域間外交の中で、他と依存しない在り方を模索する。
選択肢1は冷戦構造の延長の中で、既に日本が選択している戦略である。現時点ではアメリカをリーダとする西側諸国の一員として、我が国は存在するといえるだろう。しかし今後、ロシアや中国、あるいはそれ以外の覇権国家をリーダとするグループの中での存在感を模索する方法もあり得る。
選択肢2は、古くは第三世界による同盟という考え方があったが、現時点では第三世界の経済的な発展度合いのばらつきから既に機能しておらず、今後はより地域に根ざした連合体が形成されていくと考える。その中でもヨーロッパにおける連合体(EU)は円熟した民主主義社会であり、経済的にも長期的な安定成長にある。2度の大戦を経験し、それぞれの国家の文化・歴史を尊重しながら、米ロ中印等の覇権国家の風下には立ちたがらないその考え方は、極めて戦後の日本と同質性の高い思想だと言えるだろう。またおそらくヨーロッパ側もまた、世界の中でEUが指向する精神を(実感情として)理解できる数少ない国家として、日本を捉えていると思われる。一方、我が国とは地理的にも近いASEAN諸国・オーストラリア・ニュージーランド、あるいは距離は離れるがブラジルやトルコ・ポーランドなどの親日色の強い国家群と連携する選択肢も戦略的には考えられるであろう。
選択肢3はアメリカのモンロー主義的、あるいはその極端な形としては江戸時代の鎖国や現在の北朝鮮などが考えられるが、グローバル化する社会の中では現実的な選択肢としては極めて困難である。しかし産業と言う視点だけに立ってみれば、例えば我が国の輸送系が現在指向しているのはこの選択肢3である。これは国家ビジョン・戦略的選択肢という物を離れ、個別の戦術論に議論が留まった結果、このような形態が長く続いていると考えられる。

我が国を取り巻く政治状況を見れば、現実的な解として、ある段階でかっちりと選択が行われるとは考えにくい。そのため宇宙開発の分野においても、戦略的選択肢を踏まえた上での個別の戦術が立てにくい状況となっている。既に我が国は国際的な経済競争力を失いつつあり、国家として戦略的選択を実施すべき時期に来ている。まずはこのレベルにおける十分な議論と早期の決断が必要である。
一方で上記の議論を熟成させるために、これらの戦略的な思考を理解した上で、どのような個別の戦術論が取り得るのか、その選択肢を示すことも極めて重要である。

(以下まだ未執筆)

・宇宙開発戦略の考え方 その1

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